携帯コンプレックス


私のノキア(本社フィンランド)の携帯電話はかっこ悪い。 まず何と言っても色が悪い。なんと緑色なのだ。正式には「パールオリーブ」色である。さらにひどいことに、「光線の加減で色が変化する特殊なカラーを採用しています。」なのだ。形容すると、「夕方に光線を浴びる緑カナブン採用」という感じである。

 

そしてやたらと大きい。携帯電話の歴史とはすなわち小型化、軽量化の歴史であった。私の携帯は完全にその歴史を逆流しようとしている。時代への挑戦だ。私の友達はそれを「トランシーバーみたいだね。」と形容してくれた。この形を見ていると遠い北欧の国の情景が思い浮かんでくる。家が大きい。庭が広い。人口は500万しかいない。キシリトールガムを愛する。そして携帯が大きい。フィンランドには私の持っているような大きな携帯を使うだけの十分なスペースが残っているのだ。しかしここは日本だ。モナコ、香港ほどではないが、東京の人口密集率は世界でもトップクラスなのだ。もしこの東京で私の携帯と同タイプのものを使っている人が増えれば、地価は高騰し、中央線は携帯の使用による人身衝突事故でマヒするだろう。

 

しかしなぜ私はこのように気に入らない携帯を買ったのか? それは安かったからである。なんと10円だったのだ。そのときは安ければいいと思って買ってしまった。しかしその価格の安さもコンプレックスの原因となった。友達に自分の携帯の値段がばれるのではないかと日々緊張の連続だった。 とにかくこんなふうに私は自分の携帯に対してコンプレックスを持っていたのだ。しかし私の携帯は契約してから6ヶ月経っていないので機種変更する事ができなかった。

 

そこで私は「自分で携帯を改造してやろう」という恐ろしく単純な結論に達した。そしてまず色が気に入らなかったので、色を塗ってやろうと思った。しかし、そのままの状態で携帯に色を塗ると電子部品に塗料がついて壊れそうである。壊れてしまえばそれはもはや、「イミテーション携帯」にすぎない。友達から「携帯貸して」と言われても、「ごめん、今日はイミテーションなんだ」といって断らなくてはならない。そのような状態にならないためにも、まず携帯を分解して、ケース部分にだけ色を塗らなくてはならない。ところが、ドライバーやペンチを使って分解しようとしたが、どうしてもネジをまわすことができない。後で分かったのだが、携帯電話やPHSは電波の悪用を防ぐため通常のドライバーでは分解できないよう特殊なネジを使用して組み立てられていのである。しかし、その後吉祥寺のユザワヤで「携帯電話用ドライバー」なるものが売られているのを発見した。そのドライバーは先端が星型になっており、いかにも「悪い事に使うもんね。」という雰囲気をかもし出していた。周りの目を気にしながらその場で携帯を取り出して試してみると、いままでの苦労がうそのように簡単にネジをまわすことができた。早速それを購入し、いっしょに黒い塗装用のスプレーも買った。


その後分解に成功し、ケース部分を取り外してスプレーで黒く塗装した。つやの出た黒がなかなか良い感じだ。しかしどうも厚く塗りすぎたらしくなかなか乾かなかったので、生乾きの状態で組み立ててしまった。しかもタイミングの悪い時に友達から電話がかかってきて、その電話にいつもの調子で出てしまった。その後私は「自分の耳ってこういう形をしていたのか」ということを学んだ。

 

【あのJ-Phoneに電話できる日は来るのですか BUCHO】