30歳の眉毛論

 

1.傍観


最近箱根駅伝などを見ていると、妙に眉毛の細い選手が多いわけだ。箱根駅伝の魅力、これは正月コタツでぬくぬくとしながら、必死に走る選手達を見て、「ああ、正月に走らなくていいって幸せだなぁ」などと自らの平凡な生活を美化することにある。リタイアしそうな選手が監督と併走しつつ、「無理をするな! おまえには将来があるぞ! でもチームや大学や各種関係者の迷惑になるからやっぱり止まるな!」的な無茶なアドバイスを受けているシーンは、正月の雑煮をいっそう味わい深いものにしてくれる。一方、必死に走る選手の顔に目を向けるなら、そこに浮かぶ眉毛は、波の強い日本海の岸壁に必死にへばりつく藻類のようであり、正月の平和なお茶の間になぜか厳しい自然環境問題を突きつけるNHKの番組のようでもある。


  箱根の眉毛をコタツから遠い目で眺めつつも、よくよく街に出て人類を観察すると、眉毛の細い男が増えているということに気がつく。ID02の自分がICUにいた頃よりは、2〜5ミリメートル程人類の眉毛は細くなっている。このままの勢いで眉毛のサイズダウンが進むと、ID20の頃には人類の眉毛は絶滅の危機に瀕し、ちゃっかりとNHKが正月番組で取り上げるに違いない。


2.旅立


改めて自分の眉毛を見直してみると、どうもボヤッとして印象が薄い。このボヤっと感はちょうど水墨画のようであり、「雪舟の書き損じを古民家で大発見」という感じである。自分も30歳に近いので、コタツでぬくぬくするのはやめて、きちんと眉毛を整え、人類に正しい眉のあり方を問うていくべきであり、またやりたいことを即行動に移すメンタリティを鍛えていくべきではないか。


  まずはネットで情報を仕入れることにした。しかし「眉毛 男」などと検索すると、やたらとメンズエステやサロンなどヒットしてしまい、そんなところにいったら眉毛から入って髭、腹回りと、あらゆるコースを追加されそうな勢いである。うっかりと入会すると眉毛だけでなく、財布の中身までスリムになるのは間違いない。
その後別のサイトで情報を収集したところ、どうやら眉毛は自分で整えた方がいいらしいということが分かった。そのためにはまず眉毛の手入れセットを購入しなくてはならない。比較考量の結果、眉バサミ、眉ブラシ、眉抜き、眉ペンシルの4点が入ったセットをネットで見つけ、入手した。眉毛カットに必要なツールの全てがそろった盤石な布陣であり、俄然やる気が出てきた。冷静に考えると小さなハサミとかブラシとか、代替品が男子の家にもありそうなものだが、気合いを入れるという意味ではよさそうだ。


  さて、そのセットには簡単なマニュアルが付いている。それによると眉毛と一口に言ってもパーツによってそれぞれ「眉頭」「眉中」「眉山」「眉尻」などの名前が付いており、このまま相撲部屋に入門できそうな勢いである。さしずめ今の自分は「眉下十二枚目」といったところか。


3.決行


マニュアルを一通り読み、鏡を用意し、ハサミを手にする。決行である。しかし怖くて一本目が切れない。これは爆弾の解体作業に近いものがある。正しいコードを切り続ければ爆弾は止まるが、一本間違えると爆発するという、B級ハリウッド映画のラストに出てくるアレである。眉毛カットは常にマロ化のリスクを抱えており、まさに21世紀型の自爆テロである。自分の目の上にこんなリスキーなものが付いているとは、30年弱気がつかなかった。


 結局単独での決行は不可能と悟り、恥ずかしながら結局実妹(同じくICU出身)に眉毛カットを頼むことにした。妹はかれこれ眉毛を10年以上自分で整えているのだから、これが国家資格ならば間違いなく「一級眉毛整備士」を取得しているに違いない。そんな実妹のアドバイスは以下のようなものであった。

 1. 俳優などの写真を参照し、理想の眉毛のイメージをつかむ
  2. デジカメで眉毛を撮影し、イメージを元に、Adobe Photoshopを使って眉毛のラインを画面上に描いてみる
  3. 作業は一気に行わず、休憩を挟み、左右のバランスを確認しながら行う
  4. 眉毛ばかりを見ているとゲシュタルト崩壊*1を起こす危険があるので、顔全体の構成を常に意識する
  5. うまく切れたらデジカメで撮影しておき、次回以降再現できるようにする

 眉毛の加工にPhotoshopが登場するとは思わなかった。ただしリアルな眉毛で失敗してもモザイクのフィルタはかけられない点には注意したい。実妹のアドバイスを受けつつ、30分ほどかけて眉を整えてもらうと、なかなかにいい形になった。その後何度か切ってもらいながら自分でも眉毛が整えられるようになり、それとなく理想のラインが見えてきた。

 さらにその後美容院で受けたアドバイスによると、眉用の電動シェーバーを使うと小さな動きで眉毛を切ることができ、きれいに仕上がる。またハサミでは利き手ではない側の眉毛が切りにくいのだが、電気シェーバーを使えばそちら側も簡単に切ることができる。


4.疾走


  眉毛のラインを整えるのは、見えないラインを切り出す作業であり、未知の領域に踏み出す挑戦である。最初のラインを描けるかどうか、眉毛を切り始られるかどうかは、ちょっとした勇気なのだ。30歳ともなると恥ずかしい事などもはや何もない。チャンスはいつだって眉毛のように生えてくる。人生の2区から3区にいい形でタスキを繋ぐため、今日眉毛を整えて全力疾走しよう。

【BUCHO.NET】

*ゲシュタルト崩壊
(全体性のまとまりを持ったある構造に対し、何かをきっかけとして関連性に疑問を持ち、個々の構成のみを切り離して再認識しようとすること )





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