6月15日にICU国際基督教大学の公式サイトが更新され、2021年度一般選抜(一般入試)の数学において以下の出題ミスがあった事が公表されています。
「自然科学」における数学 Part I 小問 4 および 9 において、複素数の絶対値を用いた問題を出題したことを確認した。複素数の絶対値は数学 III において扱われる項目であり、本学の一般選抜における数学に関する出題範囲外からの出題であった。
結果的に小問4、問9は全員正解となって、採点をやり直したが、合否判定に変化はなかったとのこと。
過去には出題ミスは答えが無いパターンや答えが複数あるというパターンが多かったのですが、出題範囲が原因というのは初めてです。
遡って確認してみたですが、自然科学講座は1998年から現在の4教科制になって、1998年度も数学I・II(現在の数学I・II、A・B)を出題範囲とする旨が書いてありました。過去問を見ると高校数学を超える問題は何度も出題されているのですが、今回の複素数の絶対値は数IIIの複素数平面に登場するので、確かに数IIIに該当してますね。
なぜ今回の公表があったかを検討したいと思います。
文系の受験生の場合、人文・社会科学を受験しますが、この教科は、自然科学以外のICUの入試問題がそうであるように、そもそも「出題範囲」という概念がありません。
「人文・社会科学」は文学、哲学、芸術、宗教、政治、経済、歴史、社会などの分野から出題されます。(ICU Webサイト)
人文・社会科学は、人文・社会科学の領域から選ばれたテーマについての資料を熟読し、それに関する設問に解答します。課題として与えられた資料の内容を体系的に理解し把握する力、論理的に推理・思考する力、さらに資料で与えられた知識や原理を応用する力、資料の内容をもとに新しいことを推測す
る創造力をテストするものです。(ICU入試要項)
人文・社会科学は特定の科目とはリンクしていないので、出題が教育課程の範囲を超えているという「出題ミス」は起こりえません。
一方、自然科学に関してはICU入試の中では唯一、高校教科にリンクすることが明記されています。このように明記されるようになったのは1998年からで、ICUは元々理系の受験生が少ないため、教科を細分化し、高校数学理科との関係性を明確にすることで、理系の受験生の受験を促進するという狙いがあったと考えられます。そもそも「出題範囲」が書かれているのは「自然科学」だけです。
自然科学は、数学、物理、化学、生物のそれぞれの分野から出題され、受験生は試験時にその中から2 分野
を選択して解答します。出題範囲については下表の通りです。
分野: 教育課程
数学: 数学I 、数学II 、数学A、 数学B(数列、ベクトル)
物理: 物理基礎、物理
化学: 化学基礎、化学
生物: 生物基礎、生物
(ICU入試入試要項)
特に数学に関しては数学IIIが出題範囲ではない事が示唆されている上で、今回の内容が数IIIの具体的な単元の中に登場する内容であることから、今回の公表に至ったというところでしょうか。
いずれにしても自然科学受験者、特に数学選択者は出題範囲をしっかりと学習しておけば大丈夫という事は言えそうですね。
せっかくなので総合教養(ATLAS)と英語の出題も確認しておきましょう。
総合教養(ATLAS)
「数量的領域」「言語的領域」「分析的領域」におけるリベラルアーツ教育への適性を測るとともに、試験の内容に「講義を聴く」要素が含まれる試験です。まず15分程度の短い講義を聴き、それに関する設問に解答します。その後、講義トピックについて人文科学、社会科学、自然科学の観点からの論述等を読み、それぞれの設問に解答します。ICUの授業の疑似体験を通して迅速かつ的確な判断力、論理的な思考力、これまで学んできた知識や考え方を柔軟に問題解決に応用する能力などを評価します。(ICU Webサイト)
ATLAS (Aptitude Test for Liberal ArtS):
文系・理系にとらわれないリベラルアーツの「世界地図(アトラス)」をプレビューすることによって、ICUの教育への適性を判断するものです。
(ICU Webサイト)
総合教養(リスニング含む)は、リベラルアーツの基礎となる人文科学、社会科学、自然科学を統合した学力を判断する総合問題です。特定のテーマについての講義を聴き、その内容およびそれに関連する論述や資料に関する設問に答えます。文系・理系にとらわれない広い領域への知的好奇心や論理的で批判的な思考力を養うICU の一般教育の授業を受けるつもりで取り組んでください。(ICU入試要項)
総合教養に関する入試要項の記述は、何が出るかというより、試験を頑張ってくださいというメッセージになっています(笑)。
英語
入学後の「英語での学び」への適性があるかを評価します。通常の日本の大学入試に多く見られる英文和訳・和文英訳のような問題とは異なり、英語でものを考え、理解し、分析する能力を測ることを目的とします。 全体の意味と各文の論理関係を理解する力が求められます。 2部構成でまずリスニング(約30分)を行い、引き続きリーディング(約60分)となります。(ICU Webサイト)英語(リスニング含む)は、英語で書かれた資料を読み、それに関連した問題に答える形式の読解の試験と、スピーカーから流れる短い講義を聴いて、正答を選ぶ形式のリスニングがあります。(ICU入試要項)
ICUの英語も高校の英語にリンクするとは書いていません。実際の入試ではアカデミックな英文が出題されていて、英語を用いて大学で学んだり研究したりする能力を測る試験の構成です。
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このように各教科の出題を並べてみると、自然科学はだけが出題範囲を特定されていて、さらに数学は数IIIが含まないことが示唆されているという意味で逆に特殊ですね。今回の公表もそのような背景が反映されていると思います。また、自然科学以外の試験科目は高校の教科とはリンクしていない点は再確認しておきたいところです。
ICU入試の受験生としては、ICU入試の出題の幅広さを再認識して、闇雲に取り組むのではなく、過去問を中心に勉強をして、特にどのようなコンセプトで入試が行われているかを常に確認しながら学習を進めたいところです。